おもてなしの言葉4「どうぞごゆるりと」
飲食店や喫茶店に入ってお茶を出された後、
「どうぞごゆるりと」とか、
「どうぞごゆっくり」と言われると、
ほっとする気持ちになりますね。
日本語は不思議です。
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「ゆ」とつく言葉には、何かリラックス効果のある言葉がたくさんあります。
「ゆっくり」「ゆるやか」「ゆとり」「湯」など、
副交感神経を休めるような、そんな言葉がたくさん散りばめられています。
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そこに「ご」とか「お」をつけて日常の中で使っているのです。
「ごゆるりと」で、手足を伸ばしてくださいと、
「ごゆっくり」で、時間に制約はありませんよと、
そんな相手の思いが伝わってきますね。
どちらも、言われると嬉しくなる、致される言葉です。
お店が混雑していて接客にも大変だろうなあと思いながらも、
この言葉を耳にすると、ああ、しばらくここでくつろげるなあという気分になりますね。
言葉というのは、本当に不思議なものです。
自分でも、相手のために、早速今日から使ってみましょう。
相手の方もきっと癒されることでしょう。
現代人には、忙しいからこそ、より一層この言葉を使ってほしいものです。
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おもてなしの言葉3「どうぞお上がりください」
我が家へお客様をお迎えするとき、
「どうぞお上がりください。」
と言いますね。
丁寧な言葉です。
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玄関で履いている履物を脱いでいただき、
一歩、二歩と上がり框(かまち)から上がってくださいと、
そんな意味も込められていますね。
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「どうぞお入りください。」というのも
よく使われる言葉ですが、
これは履物を履いたまま入っていただく、
お店や事務所、会社などにふさわしい言葉ですね。
外国では靴を履いたまま個人宅に入りますので、
この言葉のほうがしっくりきます。
さて、お客様に親しみと歓待の思いを込めて、
「どうぞお上がりください。」と、
さらりと言えるようになりたいものです。
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おもてなしの言葉2「ようこそ、お運びくださいました」
空港で外人さんをお迎えする言葉。
「ようこそ、日本へ!」
空港でよく見かけますね。
帰国してきた日本人でさえ、嬉しくなります。
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お客様をお迎えするとき、
「ようこそ」に続いて「おいでくださいました。」
というのが最初のおもてなしの言葉ですね。
「ようこそ、おいでくださいました。」
「ようこそ、いらっしゃいました。」
さらに、こんな歓迎の言葉もあります。
「ようこそ、お運びくださいました。」
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「お運び」には、遠方より足をここまで運んでくださった、その労力や時間、費用など全部をひっくるめて感謝とねぎらいの気持ちを表す言葉です。
ここまで来てくれるのは当然でしょうなどという思いは微塵も感じさせません。
ただただ相手を思いやる気持ちのみです。
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「本日はお足元の悪い中」というふうに、雨や雪の日には言いますね。
防寒をし、傘を差しながらも 衣服や履物などを濡らし、
時間を割いて、ここまでおいでくださった、なんてありがたいことなんだろうという思いが込められていますね。
昨日は”和のたしな美塾”の新年会でした。
大寒が過ぎ、寒さもひとしお、そして雨や雪も懸念されましたが、
お天気に恵まれてほっと胸をなで下ろしました。
年に一度の行事にわざわざ足を運んでくださる皆様には心から感謝しています。
ありがとうございました。
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どんな方に対しても、心のこもった歓迎の言葉
「ようこそ、お運びくださいました。」を使いたいものです。
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後日お礼状には、
「ようこそのお運び、厚く御礼申し上げます。」
なんて、さらりと書けたら、かっこいいですね。
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おもてなしの言葉1「お待ちしていました」
「もてなし」の丁寧語は「おもてなし」。
この言葉はオリンピック招致のプレゼンの時の滝川クリステルさんによって、
本当に有名になりましたね。
「お」「も」「て」「な」「し」のジェスチャーも流行しました。
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「おもてなし」は「表がない」ことに通じます。
「裏表がない心」を表します。
ということは、真心を持って相手を歓待する誠意をそのまま表現することになります。
それは日常のごく普通の心のあり方にも通じるように思います。
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お客様を迎える時の言葉
「お待ちしていました。」
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お茶のお稽古に出向いて、師匠の前で「今日もよろしくお願いします。」と
一礼するときに、いつも 「お待ちしていました。」と、
この言葉をおっしゃってくださいます。
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ああ、待っていてくださったのだなあと、毎回この言葉を聞くたびに感激します。
電車を乗り継いで、やっと辿り着いた師匠の家で最初に語りかけてくださる言葉。
「お待ちしていました。」
素敵なおもてなしの言葉です。
人は真心のこもった言葉によって癒されますね。
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日本の「働く」の本当の意味は
おはようございます。
今日も“和のたしな美塾”®から
たしな美人「和の雑学」をお届けいたします。♡
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「働く」って、職業として仕事をするとか、
生計を維持するために稼ぐという意味なのだとばかり思っていませんか。
日本と西洋とでは「働く」ことの意味合いが元々違っていたようです。
西洋的な「働く」という発想から見ると、
「働く(Work)」の反対語は「遊ぶ(Play)」ということだといいます。
もともと労働階級が資産家に時間を拘束されて「働く」という考え方からきているものなのです。
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日本では、「働く」は、
「はたらく(傍楽)」と書いて、
周囲(傍)の人を楽にする、楽しくするという意味があったと言われています。
日本の「働く」には、
奉仕するという意味合いが含まれていて、
苦しいもの、拘束されるという概念はなかったのですね。
日本と西洋との「働く」ことの意味合い、こんなにも違うことに気づかされます。
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先日、野中ともよさんという以前NHKのニュースキャスターをされていた方のお話をお聞きした際に、
お父様から「働くというのは、傍(はた)の人を楽にする、楽しくするものだと教わった。」と、
おっしゃっていました。
そういう教育をお父様から受けてこられたのだと、感銘を受けました。
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明治期から、日本は西洋文明の影響で思想的にも大きな影響を受けて、
物質的にも豊かな経済大国として、先人の努力によってここまでやってきました。
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ところが、東日本大震災、そして熊本大震災を経て、あれ、何か違うと、気づき始めてきたのではないでしょうか。
命のはかなさと生きることの意味を考えざるをえなくなりました。
心の中に、人のために自分ができることを何かしたいという「奉仕」の心が強く芽生え、意識されてきたように思います。
まさに「傍(はた)を楽にする」、自分の命を使って周囲の人に喜びを与える生き方は、
これからの世界をリードする「働く」意味でもあると思います。
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限りあるこの命を大切に使っていきましょうね。
今日もお元気に心晴れやかな一日をお過ごしくださいませ。
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【七十二候から】53 「霎時施す(しぐれときどきほどこす)」
【七十二候から】53
「霎時施す(しぐれときどきほどこす)」
皆様、おはようございます。
11月になりましたね。
さあっと雨が降ってはすぐ晴れる、そんな頃です。
「初時雨」
まさに、今がその時期ですね。
朝だけ降る「朝時雨」、
夕方降る「夕時雨」、
横なぐりに降る「横時雨」、
夜に降る「小夜時雨」。
天候が変わって時雨が降ることを「時雨れる(しぐれる)」といいます。
同じ雨でも「時雨」という言葉を使うと、何か優しい響きになります。
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西行のことを描いた『時雨西行』という長唄があります。
原曲は能『江口』です。
時雨降る季節、雨に濡れながら行脚している旅の僧西行は、
決してこの時雨の日の出来事は忘れまい、書き写しておこうと、最後に語ります。
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西行は、平安後期歌人・僧です。
出家前は武士(佐藤義清・憲清とも)で、鳥羽上皇の下で北面の武士として仕えていましたが、
その後出家し、諸国行脚し歌を詠みました。
自作の「ねがはくば 花の下にて春死なむ そのきらさぎの望月のころ」
という和歌のとおり、
文治六年(1190)の2月、73歳で入滅したと伝えられています。
『新古今和歌集』に94首、勅撰集の合計で266首が入集する当代第一等の歌人だともいわれています。
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さて、『時雨西行』に戻りましょう。
西行は、和歌を詠み、悟りの境地を得るために諸国を廻国修行して歩いていました。
時雨にあい、江口(大阪・大阪市東淀川)の里を訪れ遊女に一夜の宿を請うところから物語は始まります。
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遊女から一旦は断られてしまいますが、その後西行と遊女とは和歌を詠み交わします。
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「一夜の仮の宿」と「俗世」を掛け合わせて、
この世に執着してはいけないということを遊女は和歌で詠み返します。
西行は静かに目を閉じ心を静めます。
すると、典雅の調べが響き、六牙の象に乗ったまばゆい光を放つ普賢菩薩の姿が見えたのです。
目を開けば、目の前の遊女が語る言葉はこうであったのです。
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「迷いを離れた清浄な境界の大海に、煩悩の風は吹きません。
機縁が生ずれば必ずや悟りの波は立つものです。
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人は執着する心を捨てれば つらい世も恋もなくなりましょう。
人を慕ったり、人を待つことはやめましょう。
恋する気持ちや愛する気持ちを抱いて人を待てば、別れの嵐が吹き荒れます。
花が咲くさま、紅葉していくさま、満ち欠けてゆく月も、さまざまに降る雪も、
すべてはとどまることをせず変わってゆくものです。
過去のことに心を留めておいても何にもならないのです。
執着する心を捨てなさい。」と。
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なんと尊いことであろうか。なんともったいないことであろうか。
目を開けば遊女の姿。しかし、その遊女は、実は普賢菩薩の化身だったのです。
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舞踊では、この遊女江口を初めは遊女として表現し、後にその姿で普賢菩薩になるという変身を演じるところが大変難しい役どころです。
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この普賢菩薩を感得した西行は悟りを得ることができたというストーリー展開になっています。
この時雨の日、西行は人生の大きな転機を迎えたのですね。
一度、是非この舞踊もご覧になってみてはいかがでしょうか。
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西行(菊池容斎画・江戸時代)(ウィキペディアより)
【七十二候から】39 「蒙霧升降す(のうむ しょうこうす)」
【七十二候から】39
「蒙霧升降す(のうむ しょうこうす)」
皆様、おはようございます。
台風一過の後、
またもや強い雨が降り、外出には支障が出たことでしょう。
でも、大地や植物には十二分に水分が行き渡りましたもの、
今年の水不足も心配せずにすむことを祈っています。
さて、
この時期は深い霧が立ち込める頃。
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春は霞立ち、秋は霧けぶる。
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平安時代から、春は「霞」、秋は「霧」と、使い分けるようになったということです。
どちらも視界が閉ざされて遠くの景色が良く見えない状態のことをいいますね。
「霞」は気象用語としては用いられず、文学的な意味合いでの表現として使われています。
「霧」は、気象現象としては、視界1キロ未満のものが見える状態のことを指し、
1キロ以上10キロぐらいまで見える現象を「靄(もや)」と呼んでいます。
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「霞」は春の季語として、「霞たなびく」。
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澄んだ秋の月に対して、春の夜の月は「朧月」といいます。
「朧月夜」。
これもまた風流ですね。
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「霧」は秋の季語として、「霧雨(きりあめ・きりさめ)」「初秋(はつあき)霧」「夜霧」など。
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澄んだ秋の月、夜ぼんやり眺めながら、
ちょっと歌人になったつもりで、歌を詠んでみてはいかがでしょうか。
明日は満月を、来月は中秋の名月と十六夜を楽しむことができますね。
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山間部、海辺など運転の際は、霧で視界が狭くなりますので、
どうぞ十分にお気をつけくださいね。
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【七十二候から】38 「寒蝉鳴く(ひぐらし なく)」
【七十二候から】38
「寒蝉鳴く(ひぐらし なく)」
皆様、おはようございます。
先日の台風一過で、朝夕の風にもほんのり秋の風情を感じるようになりました。
都心でも、朝夕窓を開けていると、涼やかな風に生き返る思いがします。
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夕暮れのひぐらしの鳴き声や虫の合唱は、夏の終わりを告げているようです。
暑い、暑いと思っていた夏が、夢のように儚く去っていくような、
そんな思いに駆られます。
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ひぐらしは、カナカナカナ・・・、カナカナカナ・・・と、
夏の中盤から、
朝夕の比較的涼しく日差しが弱い時に鳴き始めます。
「ひぐらし」とは、日を暮れさせるという意味だとか。
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「ひぐらし」は俳句では秋の季語なのですね。
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蝉の一生は、長いようで短いものです。
枯れ枝や樹皮に産み付けられた蝉の卵は翌年の梅雨時に孵化して幼虫になり、
地中にもぐって、3年から7年もかけて、木の根から養分を吸いながら育ちます。
夏の日没後、地上に出てきて木に登り、夜中に羽化します。
天敵から身を守るためなんですね。
生まれたての蝉は翡翠色で、まるで宝石のようです。
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蝉としての寿命は数週間から1か月ほどといわれています。
成虫になって、子孫も残し、そして死んでいく・・・。
オスの蝉はメスを射止めるため、懸命に鳴き続けます。
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蝉の声が時折騒々しいなと感じられても、
彼らは精一杯の一生をおくっていることを忘れてしまわないように・・・。
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私たちも精一杯、夏の思い出を作りましょうね。
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【七十二候から】37 「涼風至る」
【七十二候から】37
「涼風至る(りょうふういたる)」
皆様、おはようございます。
立秋が過ぎたとはいえ、暑さ厳しい日々が続いていますね。
日中は暑いのですが、朝の一陣の涼しい風に秋の気配を感じる頃です。
ご挨拶は、夏の名残り、残暑見舞いとなります。
小さい秋がやってきます。
夏を惜しむ蝉の声から虫の声に次第に替わっていきますね。
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秋きぬと目にはさやかに見えねども
風の音にぞおどろかれぬる
(藤原敏行『古今和歌集』)
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立秋の日に詠んだ歌だということです。
秋がきたと目にははっきりと見えないけれども、風の音にはっと気づいたと。
平安時代の貴族は繊細な季節の変化に心ときめかせたのですね。
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秋には、鳴く虫を籠に入れてその声を楽しむ風流が貴族たちの間で流行したそうです。
江戸時代になると、秋の風情を楽しむ「虫売り」が登場してきます。
そして、風流人の間では、虫が鳴く中で俳句を作ったり、
酒を酌み交わしたりする「虫聴き」も流行したということです。
日本人ならではの、季節の楽しみ方ですね。
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「秋隣(あきとなり)」と呼ばれるこの時期。
残暑の中に、ちょっと秋の気配を感じてみませんか。
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【七十二候から】36 「大雨時行る(たいう ときどきふる)」
【七十二候から】36
「大雨時行る(たいうときどきふる)」
皆様、おはようございます。
夏の雨が、時折激しく降る頃です。
今朝も強い雨が降りましたが、パッと晴れ、雲の広がる青空が見えています。
雨後は、空も空気も晴れ晴れと気持ちがいいものですね。
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青空にむくむくと立ち上る入道雲。
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「入道雲」は雄大な積乱雲。
雲の頂が坊主頭のようにむくむくと盛り上がって見えるところから、
そう呼ばれています。
「屋根の瓦が照り返し 入道雲も上(のぼ)せつつ うろん臭げなうす笑ひ」
(高村光太郎)『道程』
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「うろん臭げな」というのは、「うさん臭げ」という意味で、
「怪しく疑わしい様子」という意味で使われているようです。
一雨欲しいところだけど、降るんだか、降らないんだか・・。
雲がうす笑いをしているようだということでしょうか。
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「坂東太郎」
関東平野を流れる利根川の異称ですが、
利根川の方向に生ずるところから、
白い雲のことをそう呼びます。
「坂東太郎は 東京にて夏の日など見ゆる 恐ろしげなる雲なり」
(幸田露伴)『雲のいろいろ』
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夏雲を恐ろしいものと捉え、「坂東太郎」という表現をしているのが、現代では新鮮に感じます。
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日本近代の詩人、小説家は、こんな風に夏の雲を表現していたのですね。
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夏は夕立も突然やってきます。
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入道雲ができて、雷とともに降ってくるにわか雨。
「驟雨(しゅうう)」
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本日も、どうぞ傘はお忘れなきように。
良き一日をお過ごしくださいませ。
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