【七十二候から】43 「草露白し」
【七十二候から】43
「草露白し(くさつゆしろし)」
皆様、おはようございます。
今日は二十四節気のうちの「白露」。
白露は、大気が冷えてきて露を結ぶ頃です。
ようやく残暑が引いていき、本格的な秋の訪れですね。
道草に降りた露が白く光って見えます。
忙しい日常の中で、そのような草を愛でるゆとりがほしいものです。
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今では忘れがちな「重陽の節句」。
「菊の節句」ともいわれます。
9月9日は「9」が重なるところから、「重陽」としてお祝いしました。
どうも現代の暦では、ピンとこないのが菊の節句。
旧暦の9月9日は、今年は、新暦で10月28日になります。
なるほど、此の頃なら、菊も咲いていますね。
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菊が咲くこの時期、菊の香りを楽しむのもいいですね。
菊は、仙境に咲く花と考えられました。
平安時代、宮中では「菊酒」を酌み交わす行事が行われたそうです。
「菊酒」を飲んで、邪気を払い、長寿を願ったのですね。
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重陽の節句の前日に、こんなこともしました。
「菊被綿(きくのきせわた)」です。
この重陽の節句の前日に、菊に綿をかぶせて香りを移し、
翌朝、露に湿った綿で顔や身体を拭いて、邪気を払いました。
枕草子や源氏物語にも「菊水」などの言葉が出ています。
優雅ですね。
菊はそんなに香り立つものだったかなあ・・と思いますね。
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いろいろなところで菊の品評会や菊人形展が開催されます。
長崎では、9月9日を「お九日(くんち)」として、
旧暦の日に収穫祭と習合して「長崎くんち」でお祝いするそうです。
季節を肌で感じる様々な行事。
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自然現象から実際の体験を通して知る「暗黙知(あんもくち)」。
江戸の人が子どもの教育にも大切にしたことです。
今こそ子どもたちに体験してほしいですね。
雨の日の気配り
雨の日。
貴女も傘の持ち方一つでエレガントに。
通勤途上、階段で前を歩く人の傘が自分の顔や肩にぶつかりそうになって
気になることがありますね。
傘をたたんで自分の体に添わせて、先端を下向きにして、
前後に振らないようにしましょうね。
ちょっとした気遣いで、周りの人も温かい気持ちになります。
それが、たしな美人。
黄金の国ジパングと虫の声
皆様、おはようございます。
「夜をこめて 麦つく音や きりぎりす」 (正岡子規)
宮城の郷里へ訪れる度に、新幹線から緑一面の水田が見えてくると、
故郷に帰ってきたなあという実感が湧いてきたものでした。
大分稲穂が実ってこうべを垂れ、少しずつ黄金色に変わりつつありますね。
「黄金の国ジパング」「瑞穂の国ジパング」
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この風景をながめていると、安らかな思いに浸れます。今年も豊作になるといいなあ。
夜は虫の合奏が聴こえてきます。
平安時代、鳴く虫を籠に入れて声を楽しむ風流が貴族たちの間で流行したそうです。
江戸時代になると、「虫売り」が登場しました。
長唄の『都(みやこ)風流』にも、「虫売り」が登場してくるのですよ。
売られていたのは、蛍、こおろぎ、鈴虫、蝉など。
虫籠も、扇形や船形など凝った作りの物が出回りました。
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また、虫が鳴くなかで俳句を作ったり、酒を酌み交わしたりする「虫聴き」も流行したそうです。
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日本人は音楽や言葉を聞く左脳で虫の声も聴くそうです。
だから、「ああ、いいなあ〜。風流だなあ〜。」と聴けるのですね。
ところが、虫の音を右脳で聞く西洋人には、雑音にしか聞こえないということです。
日本人の感性って、素敵ですね。
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少しずつ朝夕しのぎやすくなってきました。
今日も心豊かな一日をお過ごしくださいませ。
お知らせ
9月27日(水)午後1:00〜3:30
来年のお正月のおもてなし
吊るし雛にもなるお飾りを作ります。
お待ちしております。
【七十二候から】42 「禾乃登る(こくものみのる)」
【七十二候から】42
「禾乃登る(こくものみのる)」
皆様、おはようございます。
処暑の末候、「禾乃登る(こくものみのる)」頃です。
田んぼの稲穂が黄金色に色づき始めました。
収穫時期が待ち遠しいですね。
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「禾(のぎ)」とは、稲などの穂先の毛のことですが、
稲や麦、稗、粟などの穀物のことを総称して、そう呼びます。
稲は、「稲禾(とうか)」「禾稲(かとう)」ともいいます。
稲は、縄文時代に日本に伝わったといわれています。
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「禾」穂先の毛 ウィキペディアより
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一方で、台風の襲来や強風も心配な時期です。
今年は雨の被害が多くて農作物への影響がとっても心配されます。
そのために、農業が無事に進むようにと祈るお祭りも行われます。
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富山県八尾(やつお)の「おわら風の盆」もその一つです。
八尾は立山連峰を越えて日本海から強い風が吹き込む土地です。
この風が稲作に深刻な被害をもたらしてきました。
風の神様に十分に稲が実りますように、風害に見舞われないようにと、
お祈りするお祭りです。
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「風の盆」は、
風を鎮める「風祭り」と「盆踊り」が一つになって変化した風習と考えられています。
三味線と太鼓、胡弓の独特な調べにのって無言で踊る風の盆。
地元の皆さんの見せどころです。
町ごとに総出で揃いの浴衣で、唄に演奏に踊りと、圧巻ですね。
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胡弓の音色がもの悲しく、何とも言えない哀愁を誘います。
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編み笠を深くかぶり、無言で踊る姿には、優美な色気が漂いますね。
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その哀愁漂う光景から小説やヒット曲『風の盆恋歌』などが生まれたのですね。
「蚊帳の中から 花を見る
咲いてはかない 酔芙容」
石川さゆり『風の盆恋歌』
一度は是非見に行きたいこの「おわら風の盆」。
前夜祭と9月1日から3日までの3日間、
夜を徹しての、夢のような、日本の素晴らしいお祭りです。
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写真:おわら風の盆 田中進さん提供
【七十二候から】41 「天地始めて粛し(てんち はじめてさむし)」
【七十二候から】41
「天地始めて粛し(てんち はじめてさむし)」
皆様、おはようございます。
今日は昨日とはうって変わって、爽やかな秋めいてた風を感じます。
この時期は、夏の気が落ち着いて、万物があらたまるとされています。
ちょうど台風もやってくる頃です。
前回も書きましたように、立春から数えて210日目が「二百十日」と呼ばれ、
台風がやってくる日とされていますよね。
今年は続けざまに何回も台風がやってきています。
関東以北も直撃の風雨によって交通網に影響が出ています。
外出も控えなければなりません。
また台風がやってくるという予報です。
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古い時代には、台風のことを「野分(のわき・のわけ)」と呼んでいました。
野の草を分けて吹き通る風のことをいいます。
野原を吹き渡る涼やかな風は「野風(のかぜ)」「野間風(のまかぜ)」といいます。
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吹きまよふ 野風をさむみ
秋はぎの うつりゆくか 人の心の
常康親王『古今和歌集』
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季節は秋へと移り変わり、人の心の移り変わりを「野風」になぞらえているのですね。
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「野風」とは別に、「野分」について、
台風の吹き荒れる様が「源氏物語」や「枕草子」にも記されています。
「野分」というと、なんとも柔らかな表現ですが、
台風の恐ろしさ、台風一過の状況は今も平安の時代も変わりがなかったようです。
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野分 例の年よりもおどろおどろしく
空の色変りて吹き出づ
紫式部『源氏物語』第二八帖
(花の色の美しさを愛でていると、そこに野分が、いつもの年よりも激しく、空も変わって風が吹き出しました。)
台風がくる様を「おどろおどろしく」というふうに表現しているのですね。
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野分のまたの日こそ
いみじう あわれに をかしけれ
清少納言『枕草子』第二〇〇段
(野分の吹き荒れた翌日は、大変にしみじみと胸にくるものがあります。)
これは台風が過ぎた後の様子を述べています。
台風一過、大きな木も倒れ、枝も折られ、萩や女郎花も横に倒れてしまって、その思いがけない様子に痛々しいと、述べています。
昨夜は台風のために夜もろくろく眠れなかったであろう、うら若き女性のことがその後書き綴られていきます・・。
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昨今は、テレビニュースの「台風情報」で、
大きな被害の恐ろしさだけが強調されているようにも見受けれらます。
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王朝文学から、
秋への季節の移り変わりの、何かもののあわれを
感じてみてはいかがでしょうか。
【七十二候から】40 「綿綿柎開く(わたのはなしべひらく)」
【七十二候から】40
「綿綿柎開く(わたのはなしべひらく)」
皆様、おはようございます。
今日は暑さが止むという「処暑(しょしょ)」。
もうそろそろ「二百十日」という立春から210日目がやってきます。
雷が襲来する頃とされていますが、ご存知でしたか。
昨日、再び関東以北が台風に見舞われました。
昨今の台風はゲリラ型と呼ばれる激しい台風です。
ご無事でお過ごしになりましたでしょうか。
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この処暑の初めの頃、綿(わた)の花のがく(柎・はなしべ)が開き始めるのだそうです。
そして、綿の種を包む綿毛をほぐして、綿の糸を紡ぐのです。
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写真:綿の実(蒴果・さくか)
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綿は日本の生活に欠かせないものでした。
座布団も布団も、夜具としての綿入れも。
どてら(厚く綿の入った丹前)(仙台弁で「どんぶく」)も、冬の生活には欠かせないものでした。
いつの間にか化学繊維や羽毛などに取って代わられてきましたね。
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写真:はぜた綿の実
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木綿の感触は汗ばむ季節にはもってこいです。
最近とみに若者の間で夏の木綿の浴衣が人気ですね。
もっと涼感やシャリ感を味わいたければ、綿絽や綿麻が好まれます。
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さて、日本では、
木綿は、799年に三河国にインド人によって綿の栽培がもたらされたということですが、
その後は明や朝鮮からの高価な輸入品となりました。
江戸時代中期頃に国内で綿の栽培が盛んに行われるようになったようです。
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栽培には温暖な土地が好まれ、肥沃な土地でなければならず、栽培にはお金のかかるものだったのです。
ですから、江戸庶民にはなかなか手が出るものではありませんでした。
木綿の着物を古着屋でなんとか手に入れたら、大事に大事に着たのでしょう。
新品の着物なら、車一台分の値段だったとか。
冬はその中に綿を入れて温かくし、夏場は単衣に仕立て直し、繕いをしながら着て、
ボロボロになったら、自分で雑巾やオムツにして最後まで使いきりました。
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「端切れ屋」「古裂れ屋」がやってきて買い取り、切り刻んで端切れにしてまた市場で売られたり、
「灰屋」がやってきて買い取り、燃やして灰にして、田畑の肥料や洗濯、藍染に使うためにまた売られていったり、
木綿が見事に最後まで使い切られていました。
その木綿一枚の着物が綺麗に大地に戻っていくという、大地を豊かにしていくという。
そんな循環型エコシステムを知らぬ間に作り上げていたのです。
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まだまだ大量生産、大量消費の時代の循環ビジネスが構築されている現代・・・。
そう言えば、
私の祖母なども洗い張りも上手、
母も着物仕立てが得意でした。
私たちも、お裁縫ももう一度見直さなくちゃいけませんね。
手元にある着物や帯でのリメイク講座、始めています。
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写真:「綿の実」2枚
賑町笑劇場
http://jhnet.sakura.ne.jp/meotomanzai/
おもてなしの言葉8「しばしお待ちください」
「しばしお待ちください」
「しばしお待ちを」
相対的な時間のことを言いますが、
耳にする言葉ではありますが、なかなか普段は使わなくなりました。
この言葉は古くから使われてきた言葉のようです。
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天津風(あまつかぜ) 雲の通ひ路(かよひじ) 吹き閉ぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ
と、百人一首にあります。
古今和歌集におさめられた僧正遍照作の一首です。
天を吹く風よ、天女たちが帰っていく雲の中の通り道を吹き閉ざしてくれ。
乙女たちの美しい舞姿を、もうしばらく地上に留めておきたいのだ。
新嘗祭(にいなめさい)の翌日、
「豊明節会(とよのあかりのせちえ)」の宴の後に舞楽を舞う5人の公家の娘たちを天女に見立てているのです。
ああ、もうしばらくこの美しい乙女たちの舞姿をみていたいという思いですね。
********
「しばし」という言葉がこの和歌が作られた平安時代の貞観11年(869)に使われています。
この時代から、今までずっと同じ意味で使われているのですね。
「しばしの別れ」
「しばし待て」
などちょっと古風な感じがしますが、
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お客様をお待たせしているとき、
「しばしお待ちください」
「しばしお待ちを」
結婚式場やパーティーの席上で、
「しばしご歓談くださいませ。」
なんて言えたら、慌ただしさの中にも古風な落ち着きを相手の方に感じさせますね。
時間の感覚はそれぞれ、その時々によって違うものですが、
じゃあ、少しお待ちしましょうか、という心和やかな心持ちになりますね。
ちょっと意識して使ってみてはいかがでしょうか。
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(参考:高橋こうじ著『日本の大和言葉を美しく話す』)
おもてなしの言葉7「ことほぐ(言祝ぐ)」
「新郎新婦の前途を祝して、乾杯〜!」
「祝して」という言葉が私は大好きです。
ご祝儀舞踊の歌詞にも、この言葉がよく使われます。
日常に使いなれた言葉「祝う」をさらに高めた言葉が
「ことほぐ(言祝ぐ・寿ぐ)」です。
古代日本では、祝いの言葉を述べる事を「ことほぐ(言祝ぐ)」といい、
「こと」は「言」、「ほぐ」は動詞「祝く(ほく)」を意味します。
これは、もともとは漢字の「寿詞や寿賀」に由来したもので、
「ことほぐ(言祝ぐ)」を「寿」の訓としましたので、
「言祝ぐ」とも「寿ぐ」とも書くようになったのです。
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この言葉には、
言葉を口にすることによって、幸福を招き入れるという言霊思想が宿っています。
平安時代以降、「ことほく」から「寿ぐ・言祝ぐ(ことほぐ)」や「寿く(ことぶく)」ともいうようになり、
「ことぶく」の連用形が名詞化して「寿(ことぶき)」になったということです。
「ことほぐ(言祝ぐ・寿ぐ)」には、
おめでたい言葉を口にすると、本当に幸せが訪れると、
そういう先人の思いが込められていたのです。
梅の花や河津桜は満開を迎えて、
「春の訪れを言祝ぐ」
結婚式で、新郎新婦に対して、
「ご結婚を言祝ぎ、舞をひとさし・・・」
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日本は発する言葉に特別の力があるとして、言葉を大切にしてきた国です。
美しい言葉、相手にも心地よい言葉、自分にもポジティブに語りかける言葉は
相手も自分も癒され、新たなエネルギーの交歓が生まれますね。
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この「ことほぐ(言祝ぐ・寿ぐ)」にも、
相手に対する末広がりの幸福や長寿が現実のものとして叶いますようにと願う、
そんな優しい思いが込められていることを覚えておいてくださいね。
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おもてなしの言葉6「ほんのお口汚しですが」
日本には謙遜の言葉がたくさんありますね。
この言葉もその一つです。
「ほんのお口汚しですが。」
今この言葉を使える人がいるでしょうか。
「お口汚し」というのは、口の中を汚すまずいものという意味ではなく、
口の中を汚すだけのほんのわずかな量ということです。
お土産を人様に差し上げるとき、
お酒の肴としておつまみを出すとき(大皿ではなく小皿料理)、
「ほんのお口汚しですが。」
と、使ってみたいですものね。
こういう言い方もありますね。
簡単に、「お口汚しですが。」
前回ご紹介した言葉、「お口に合いますかどうか・・・。」
そう言いながら、
大切な年長者や目上の方にお渡ししたら、
お口に合わないかもしれませんが、
どうぞ召し上がってくださいませ、
という謙遜を込めた表現になりますね。
*******
お着物を着て相手の方のお宅にお伺いする際、
座敷で風呂敷の包みを開いて、
相手の方に菓子折りをそっと差し出す時、
「ほんのお口汚しですが」と、ひと言。
そんな日本の古来の風習の光景が目に浮かびますね。
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同世代の友達に使うにはちょっと不向きかもしれません。
でも、知っておくと、いざという時には
さりげない奥ゆかしさを発揮できると思いますよ。
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謙遜、相手に対してへりくだるという心を大切にする風習が薄らいできている昨今です。
真心を伝える素直さ、相手の心遣いを理解する心のゆとり、
それはやはり日本人の美徳の一つだと思います。
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おもてなしの言葉5「お口に合いますかどうか」
皆様、おはようございます。
昭和の時代までは、女性は花嫁修行としてお茶にお花・・が必須といわれ、
人を家にお招きするのがごく普通のことでした。
現代はホテルなどの非日常の場所で集うことが多くなりましたね。
ですから、家庭にお客様をお招きして、手料理でおもてなしをする機会も少なくなりました。
「お口に合いますかどうか・・・」
そんな言葉もそういえばあったなあ~という程度で忘れ去られているように思います。
お客様の味覚に合うかどうかわかりませんが、
もてなす側としては、精一杯のご馳走をご用意いたしました。
目には見えませんが、下ごしらえにも心をくだきました。
その結果はいかがでしょうか。
お客様がどのように感じてくださるか、不安半分、緊張半分の心持ちです。
「お口に合いますかどうか・・・」
と、そんなシチュエーションで言われたら、
客人は、もし仮にそれが自分の好みの味ではなかったにせよ、
私のために用意してくださったのだなあと、
心から幸せな気持ちになります。
客人をもてなすご亭主の心配りにありがたいなあという思いにかられます。
まさにそれがお茶事の根本であるともいわれています。
「お口に合いますかどうか・・・」
何でもいいのです。
一品でも、心を込めて、手作りのものでお客様をお迎えしてみませんか。