能の鑑賞法〜No.7

ー能舞台の鑑賞法ー

6世紀以上も生き続けてきた能。シェイクスピアより2世紀も前に世阿弥が作った能が、現代まで生き続けてきた魅力、最も古くて、異国の人をも魅了する秘密、今まで何回かにわたって大まかに述べてきました。

織田信長が、桶狭間で、今川の軍勢に必死の攻撃をかけるのに先立って、

「人間五十年、下天の内にくらぶれば、夢まぼろしのごとくなり。

一度生をうけ、滅せぬ者のあるべきや」と、

『敦盛』を舞うシーンを映画やドラマで見かけます。

戦国の時代、生と死はいつも隣り合わせにあって、武将たちは心の安寧を禅宗に求めたように、能舞台の世界に入り込むことによって、様々な苦悩を忘れ、現実から逃避することができたのでしょう。

そんな原点を振り返りながら、なぜ能はこれほど長い歴史を保ち続けてきたのか、再度、その能楽の魅力を生の舞台を通じて考えてみるのもいいですね。

最後に、能の鑑賞方法についてのコロンビア大学のドナルド・キーン教授の提案を記して、終わりにしたいと思います。

能には様々な魅力があり、私たちは能についての特別な知識がなくても、感動することができます。シテが橋掛りに現れる瞬間から、他の演劇にないような美を感じさせます。

能の一番の楽しみ方は、私は現実からの逃避だと思います。能が芸術として完成された室町時代は、戦争と無数の悩みのある時代でしたが、当時の観客も舞台の世界に入り込んで悩みを忘れることができたのでしょう。

昔の人は能を見ながら泣きました。それが今も一番いい鑑賞方法ではないかと思います。私自身は能を見る場合には、能の筋書や名文句、謡の聞かせどころではなく、全体的な美しさに感動して、悦びを感じるのです。

数回にわたる能の連載を最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。