【七十二候から】51 「蟋蟀戸にあり(きりぎりすとにあり)」
【七十二候から】51
「蟋蟀戸にあり(きりぎりすとにあり)」
皆様、おはようございます。
きりぎりすが戸口で鳴く頃です。
「蟋蟀」はきりぎりすか、こおろぎか、諸説あるようです。
日本人ならお馴染みの「虫の声」という唱歌がありますね。
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あれ松虫が 鳴いている
ちんちろ ちんちろ ちんちろりん
あれ鈴虫も 鳴き出した
りんりんりんりん りいんりん
秋の夜長を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
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きりきりきりきり こおろぎや(きりぎりす)
がちゃがちゃ がちゃがちゃ くつわ虫
あとから馬おい おいついて
ちょんちょんちょんちょん すいっちょん
秋の夜長を 鳴き通す
ああおもしろい 虫のこえ
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「尋常小学読本唱歌『虫のこえ』」ウィキペディアより
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実は、
「きりきりきりきり きりぎりす」から
「きりきりきりきり こおろぎや」に改められた経緯があります。
1932年の「新訂尋常小学校唱歌」にて、「きりぎりす」はこおろぎの古語であったというのです。
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きりぎりす夜寒になるを告げがほに 枕の下にきつつ鳴くなり (西行)
この西行の和歌が詠まれた平安時代には、
「きりぎりす」は「こおろぎ」のことを指していたといいます。
このこおろぎは、「つづれさせこおろぎ」のことで、
こおろぎの鳴き声は万葉集にも歌われていたようです。
平安時代には、「蟋蟀」は「つづれさせこおろぎ」のことでした。
リーリーリーと、衣の綴れを刺せという音を聴いて、平安歌人は歌を詠みました。
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また、「蟋蟀」はきりぎりすを指し、別名を「機織り虫」とも呼ばれます。
鳴き声が「ギーッチョン、ギーッチョン」と、機織りのように聞こえるからだとか。
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ところで、七十二候の「蟋蟀戸にあり」のルーツは、中国最古の詩篇『詩経』(紀元前11~6世紀)といわれています。
農民の暮らしは「七月に野に在り、八月は軒下に在り、九月は戸に在り、十月は我が床の下に入る」と、詩に詠まれているのだとか。
有名な杜甫や白居易が、蟋蟀は秋になると暖を求めて家や寝床に近づくことを漢詩に詠みました。
それが日本にも影響を及ぼしました。
虫の音は晩秋の寒さの中で弱々しく鳴くからこそ味わいがあるものだと。
盛りを過ぎて、終わりゆくものへの哀れを感じる侘び寂びの思いが日本人にはぴたりと合ったのでしょうね。
名残りを楽しむという日本人の感性は、虫の音だけではなく、
食でも着物でも茶道でも、いろいろな美の世界で取り入れられていますね。
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風鈴・・・虫の声
そんな時、目にも耳にも涼しげな風鈴やシダの根茎を丸めた忍玉(しのぶだま)に風鈴をつけた釣り忍。
この音色、心地の良いものですね。
家の軒や窓に吊るすと、風が通るたびに涼しく鳴りますね。
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金属製のものはその音色によって、「鈴虫」「松虫」などと呼ばれます。
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ところで、『虫の声』という唱歌がありますが、そこで五つの虫(松虫、鈴虫、コオロギ、ウマオイ、くつわ虫)が登場します。
ちんちろ ちんちろ ちんちろりん………
りんりんりんりん りいんりん………
日本人は、鈴虫でも松虫でも自然に音を聞き分けていますよね。
三味線でも表現するほどです。
西洋の人は日本人のように虫の音を聴き分けることができないと聞いたことがあります。
虫が奏でる音を聴き分けて、音楽にまでしてしまうのは日本人の微細な音や空気に対する感性なのでしょうか。
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角田忠信氏の「日本人の脳」という本によると、日本人の脳は、この風鈴、鳥の声、虫の音、せせらぎの音、風の音などを、
多くの外国人にとっては、雑音としか聞こえないのに、日本人には心地よい音に聞こえるといわれるそうです。
更に、日本人は、色々な音を言語として認識しているそうです。
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そんなことを思いながら、今日も涼やかな風鈴の音色が何処かで聞こえたら、耳を澄ませてみてください。
ちょっと涼やかになれることと思います。
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