【七十二候から】37 「涼風至る」
【七十二候から】37
「涼風至る(りょうふういたる)」
皆様、おはようございます。
立秋が過ぎたとはいえ、暑さ厳しい日々が続いていますね。
日中は暑いのですが、朝の一陣の涼しい風に秋の気配を感じる頃です。
ご挨拶は、夏の名残り、残暑見舞いとなります。
小さい秋がやってきます。
夏を惜しむ蝉の声から虫の声に次第に替わっていきますね。
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秋きぬと目にはさやかに見えねども
風の音にぞおどろかれぬる
(藤原敏行『古今和歌集』)
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立秋の日に詠んだ歌だということです。
秋がきたと目にははっきりと見えないけれども、風の音にはっと気づいたと。
平安時代の貴族は繊細な季節の変化に心ときめかせたのですね。
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秋には、鳴く虫を籠に入れてその声を楽しむ風流が貴族たちの間で流行したそうです。
江戸時代になると、秋の風情を楽しむ「虫売り」が登場してきます。
そして、風流人の間では、虫が鳴く中で俳句を作ったり、
酒を酌み交わしたりする「虫聴き」も流行したということです。
日本人ならではの、季節の楽しみ方ですね。
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「秋隣(あきとなり)」と呼ばれるこの時期。
残暑の中に、ちょっと秋の気配を感じてみませんか。
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【七十二候から】36 「大雨時行る(たいう ときどきふる)」
【七十二候から】36
「大雨時行る(たいうときどきふる)」
皆様、おはようございます。
夏の雨が、時折激しく降る頃です。
今朝も強い雨が降りましたが、パッと晴れ、雲の広がる青空が見えています。
雨後は、空も空気も晴れ晴れと気持ちがいいものですね。
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青空にむくむくと立ち上る入道雲。
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「入道雲」は雄大な積乱雲。
雲の頂が坊主頭のようにむくむくと盛り上がって見えるところから、
そう呼ばれています。
「屋根の瓦が照り返し 入道雲も上(のぼ)せつつ うろん臭げなうす笑ひ」
(高村光太郎)『道程』
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「うろん臭げな」というのは、「うさん臭げ」という意味で、
「怪しく疑わしい様子」という意味で使われているようです。
一雨欲しいところだけど、降るんだか、降らないんだか・・。
雲がうす笑いをしているようだということでしょうか。
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「坂東太郎」
関東平野を流れる利根川の異称ですが、
利根川の方向に生ずるところから、
白い雲のことをそう呼びます。
「坂東太郎は 東京にて夏の日など見ゆる 恐ろしげなる雲なり」
(幸田露伴)『雲のいろいろ』
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夏雲を恐ろしいものと捉え、「坂東太郎」という表現をしているのが、現代では新鮮に感じます。
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日本近代の詩人、小説家は、こんな風に夏の雲を表現していたのですね。
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夏は夕立も突然やってきます。
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入道雲ができて、雷とともに降ってくるにわか雨。
「驟雨(しゅうう)」
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本日も、どうぞ傘はお忘れなきように。
良き一日をお過ごしくださいませ。
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【七十二候から】35 「土潤いて溽し(むし)暑し」
【七十二候から】35
「土潤いて溽し暑し(つちうるおいてむしあつし)」
皆様、おはようございます。
関東甲信越地方もいよいよ梅雨明けになりました。
暑さ本番を迎えますね。
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外は熱気がむっと湧き上がり、蒸し暑さを一層感じる頃。
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都会の密集した地域では、冷房の室外の熱風によっても暑さが増してきます。
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冷房に頼るだけではなく、暑さをしのぐ工夫をしたいものですね。
日本人なら誰しも涼を感じる夏の風物詩・・
打ち水、夕涼み。
かき氷にスイカ。
風鈴に忍玉。
金魚すくいにヨーヨー玉。
浴衣と花火。
枝豆に冷たいビール。
蚊取線香に蚊帳。
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枝豆には、山形のだだちゃ豆、新潟の茶まめ、京都の丹波黒豆など、
さまざまありますね。
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日本人が氷を食べる習慣は、平安貴族の時代からあったようですが、
本格的には明治に入ってからです。
明治2年、横浜馬車道で町田房造によって氷水が、
その後、横浜の中川嘉兵衛によって本格的な氷が売り出されたとか。
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現代は冷蔵庫で手軽に氷が作れる時代になりましたけど、
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日本の夏を、一工夫しながら、どうぞお楽しみくださいませ。
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【七十二候から】34 「桐始めて花を結ぶ」
【七十二候から】34
「桐始めて花を結ぶ」
皆様、おはようございます。
最も暑い真夏の頃「大暑」を迎えました。
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桐の花が梢の高いところで紫の淡い色の花を咲かせるのがこの時期です。
古来から桐は鳳凰が宿る神聖な木として大事にされ、
「菊の御紋章」に次ぐ高貴な紋章として、
天皇家や武家で重んじられてきました。
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500円玉を見てみてください。
表に描いてあるのが桐なのですよ。
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娘が生まれたら桐の苗木を植え、
お嫁入りの時に伐採して嫁入り箪笥にするという習慣がありました。
大切な着物や衣類を保管してくれる大事な嫁入り道具ですね。
日本の暮らしの中で、桐は高貴な紋章として、
また身近な家具として(高価なものですが)息づいていますね。
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現代の生活の中からは桐の木も花も遠のいてしまっているように思います。
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詩人北原白秋は『桐の花』(1913年・大正2)という処女歌集を著します。
「桐の花とカステラの時季となった。」と、始まります。
文明開化の象徴であるカステラ。そして桐の花。
古いものと新しいものとが交錯しているように見えます。
恋い焦がれた女性への思いを綴った歌集『桐の花』。
恋心は「桐の花が咲くと冷たい吹笛(フルート)の哀音を思ひ出す」と、
こんな繊細な感性を心の奥から引き出したのですね。
ため息が出るようです・・。
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どうぞお体にお気をつけてお過ごしくださいませ。
今日も佳き一日になりますように。
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上善水の如し
今日も“和のたしな美塾“®から
たしな美人「和の雑学」をお届けいたします。♡
海の日にちなんで、水をテーマに綴ってみたいと思います。
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禊のルーツを辿れば、
イザナギが亡くなった妻イザナミがいる黄泉国から戻ってきて、
身にまとっているものを全部脱いで、
黄泉の国で身体についた穢れを落としたという神話からきています。
日本には、禊のもとになる身濯(みそそぎ)、身削(みそぎ)というものが神代の時代からありました。
水の中につかり、穢れを洗い流して心身を清めるというというものです。
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五節句の一つ「雛祭り」も、
川で身を清め邪気を払うという習わしがその元にはあったのですね。
詳しくはこちらから「雛人形」の歴史をご覧くださいませ。
http://derivejapan.com/blog/beauty/hina-matsuri/
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お互いが憎しみあっている間柄で和睦することを、
「水に流す」
といいます。
心も体も、過去の穢れを落とすという禊から考えれば、
お互いに長く深い憎しみで傷ついた心身を水で洗い流すことで、
後ろばかり見ている生き方から、
創造する未来へとともに前進していきましょうという意味になりますね。
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「すみません」という言葉も、
もともと「澄みません」と書いて、
「水が澄んでいないような状態を人間関係において自分が作り出してしまった」
「水を濁らせてしまった」
そういうことに対してお詫びする詫びる意味があったのです。(歴史学者の樋口清之氏)
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「水の如し」という表現もいくつかあります。
「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」という吟醸酒があります。
雪解けの水のようにさらりとしたフルーティーな味わいのお酒です。
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以前、NHK大河ドラマ『黒田官兵衛』でも描かれていましたが、
戦国乱世の天才軍師であった黒田官兵衛は、家督を嫡男長政に譲った後、
「黒田如水」と名乗って隠居しました。
「如水」というのは、
『老子(8章)』からとった言葉とされています。
「最高の善は水のようなものである。万物に利益をあたえながらも、他と争わず器に従って形を変え、自らは低い位置に身を置くという水の性質を、最高の善のたとえとした。」と。
また「黒田如水」については、
司馬遼太郎著『播磨灘物語』の「如水」には、
「身ハ褒貶毀誉ノ間ニ在リト雖モ心ハ水ノ如ク清シ」
「水ハ方円ノ器ニ随フ」という古語からとったともあります。
水が器によっていかようにも姿を変えるように、自我のない姿を表しています。
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鴨長明の『方丈記』の一節
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。」
鴨長明は、出家の後、57歳のときに洛南日野の方丈の庵で『方丈記』を書いたそうです。
前半部分では、中世的な無常観をもって、
長明が直接体験した五大災害(安元の大火・治承の辻風・福原遷都・養和の飢饉・元暦の大地震)を描写し、この世の無常とはかなさを著しました。
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るる書き綴ってきましたが、
日本人の精神性には、神道、老荘思想、仏教など、様々なものが根本にはありますが、
生々流転している大自然の中で、とどまることなく流れゆく水のように、
思いをとどめず、形を変えながら循環し進化していくことが最もよいのでしょう。
この世界のとどまることのない戦乱の中にあって、日本人の独特の精神性、考え方が世界が穏やかで平和になっていく、その一石を投じていくものと思うのです。
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「おもひおく 言の葉なくて つひにゆく みちはまよわじ なるにまかせて」
「今となっては思いをとどめおく何ものもない。
この最後の道行に何の迷いもないのだ。
なるように、なるがままに、身をまかせて進んでいこうではないか。」
(黒田官兵衛の辞世の句)
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【七十二候から】33 「鷹乃学を習う(たかわざをならう)」
【七十二候から】33
「鷹乃学を習う(たかわざをならう)」
皆様、おはようございます。
鷹のひなが、飛び方を覚え、
巣立ちをし、自分で獲物を捕らえて、
一人前になっていく頃です。
都会暮らしでは、現代は鷹との生活なんてほど遠いものですね・・。
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昔の武将はよく鷹狩りをしていましたよね。
時代劇でも時々見かけます。
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東京の浜離宮恩賜公園は、
江戸時代に将軍家の御鷹場(おたかば)でした。
今でも伝統ある鷹狩の技「放鷹術(ほうようじゅつ)」の実演がお正月に行われています。
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江戸時代の名残で、「鷹匠町」という地名も残っているところが多いのではないでしょうか。
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モンゴルの女の子が鷹匠に育っていく場面をテレビで見たことがあります。
鷹と心を一つにして、ともに訓練していく姿は感動的でした。
鷹とのコミュニケーションを作り上げていくのは楽しいでしょうね。
鷹匠として女の子も成長し、鷹も共に成長していく喜び、
醍醐味でしょうね。
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本日も素晴らしい一日をお過ごしになりますように。
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【七十二候から】32 「蓮始めて開く(はすはじめてひらく)」
【七十二候から】32
「蓮始めて開く(はすはじめてひらく)」
皆様、おはようございます。
蓮の花が咲き始める頃です。
「蓮は泥より出でて泥に染まらず」
と言われますね。
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二千年前の弥生時代の蓮の実が、現代に花を咲かせたなんて・・。
1951年、千葉の落合遺跡で発見された蓮の実です。
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時を超え、土の中で気の遠くなるような歳月を過ごし、
生命力を蓄えていたとは、その神秘の力に驚嘆するばかりです。
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泥の中で咲く蓮の花のように生きなさいと、
蓮の花を見る度に、メッセージを語りかけてくるように思います。
乗り越えられないものは与えられないのだと。
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今日東京下町では、先祖の霊を迎える日。
おがらをたいて、盆提灯で迎え火をします。
今こうして日々つつがなく暮らせるのは、ご先祖さまのおかげ。
感謝の心を抱いて生きる人は素晴らしいですね。
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【七十二候から】31 「温風至る(おんぷういたる)」
【七十二候から】31
「温風至る(おんぷういたる)」
皆様、おはようございます。
そろそろ梅雨が明け、夏の熱風が吹き始める頃。
梅雨が明けて、本格的に夏になる頃を「小暑」よ呼びます。
梅雨明けはいつ頃になるのでしょうか。
もうすぐですね。
梅雨明けの頃に吹く風を「白南風(しらはえ)」と呼ぶそうです。
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白い南の風と書きますね。
白は雲の色。
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「白南風」は、梅雨が明け、黒雲が去って空に巻雲や巻層雲が白くかかる頃、
そよ吹く爽やかな南からの季節風のことを、そう呼ぶのですね。
漁師さんたちが海へ出る目安としていました。
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七夕の今日、星に願い事をしましょうか。
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新暦ではちょうど梅雨の時期ですので、天の川が見えないことが多いですね。
織姫と彦星は、
雨のために天の川を渡れない時には、
それぞれカササギに乗って会いに行くといわれています。
天空を仰いで何も見えないとしても、
きっと二人は、今宵も一年に一度の逢瀬を楽しむことでしょう。
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【七十二候から】30 「半夏生ず(はんげしょうず)」
【七十二候から】30
「半夏生ず(はんげしょうず)」
皆様、おはようございます。
「半夏(からすびしゃく)」が生え始める頃。
そろそろ田植えを終わらせる農事の節目とされました。
農家の人たちは忙しさが一段落し、
讃岐地方ではでは、田植えを手伝ってくれた人たちに労をねぎらう
うどんのふるまいをするという習わしがあったとか。
というわけで、明日は「うどんの日」でもあります。
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私たちの住む日本は稲作の国。
美味しいお米をいただくためには
88もの手間がかかると、いわれていますよね。
大自然へ、作ってくださる方へ、お米へ、食べ物へ、
今日も感謝しながらいただきましょう。
ありがとうございます。
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【七十二候から】29 菖蒲華さく(あやめはなさく)」
【七十二候から】29
菖蒲華さく(あやめはなさく)」
皆様、おはようございます。
「菖蒲華さく」頃。
あやめが咲いたら、梅雨が到来する。
そんな目安でもあったのですね。
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あやめは初夏に咲く美しい紫の花です。
「いずれ あやめか かきつばた」といわれるように、
かきつばたや花しょうぶなどとも似ていますが、
あやめの花にある網目模様で見分けることができます。
ちょっと注意して見てみてくださいね。
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吉原の風物詩を描いた清元『北州』は、
狂歌で知られる江戸の文化人、太田蜀山人の手になるものです。
「恐れ入谷の鬼子母神」
は、有名ですね。
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清元『北州』では、
「鳴くや皐月のあやめ草
あやめも分かぬ単衣物」
と、夏の風物として「あやめ」を描いています。
初夏のホトトギスが鳴く頃、
着物は袷から単衣へ、
織の目もはっきり分からないような白黒の単衣物へと、
衣替えをしていく様子を掛け言葉で描写しています。
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新緑広がる季節の爽快感と美しい女性を彷彿とさせますね。
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もう直ぐ梅雨の季節ですね。
お体に気をつけてお過ごしくださいませ。
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